顎関節症とは
顎関節症は、口を開けたり閉じたりする顎の関節や顎を動かす筋肉(咀嚼筋)に異常が起こり、「あごが痛い」、「口が開きにくい」、「音がする」、「顎や耳の周辺の痛みを伴って、口が開かなくなる」あるいは「ものが噛みにくい」といった症状が現れる病気です。
疫学調査の結果から、顎関節に何らかの症状を持つ人は日本人の全人口の7~8割に上ると報告されています。しかし、実際に大きな不具合があるなどして治療を受けている人は顎の症状のある方のうち7~8%と言われています。
原因は歯の噛みあわせや歯ぎしり、食いしばりなど、そして後述する歯と歯を無意識にかみ合わせるTCHという癖であることがほとんどです。歯が抜けたままになっていたり、合わなくなった入れ歯などを無理して使ったり、不適切な差し歯や、歯の詰め物、かぶせものが行われてかみ合わせが変わった場合に、噛み合わせのズレが生じて、顎の位置が狂ってしまった結果、顎関節に症状が出ることがあります。
顎関節症はかなり一般的な病気ですが、症状が軽い場合には、特別な治療をしなくても、自然に改善に向かい症状が治まることも多いのですが、症状によって日常生活に支障があれば、治療を受けるべきです。
顎関節症の原因
顎関節症の原因は、明らかにされていないのですが、多くの因子が関係していると言われています。
神経系の異常、外傷、歯ぎしりや噛みしめ等の習癖、精神・心理的因子、咬合(咬み合わせ)の異常、その他の因子です。中でも最も一般的な原因は日中、睡眠中のくいしばりが考えられています。
日中のくいしばりに対しては、くいしばりが原因になっていることを理解してもらい、それを止めるように指導します。
睡眠中の歯ぎしりは、意識してもやめれるものではないため、関節への負荷を軽減させる目的でマウスピース(スプリント)を就寝中に装着してもらいます。
このような症状は顎関節症の疑いがあります
顎関節症は耳の前にある顎関節。それを構成する骨、筋肉、靭帯といった構造のバランスがくずれることによって発症します。顎関節症の症状には以下のようなものがあります。
-
口を開けようとすると痛い
痛む場所としては耳の前の顎関節や片側の顔から頭までが痛いように感じることもあります。頬やこめかみに痛みが出ることもあり、頭痛と感じる人もいます。
-
あごを動かすと音がする
カクカク、コキコキ、ゴリゴリ、ザラザラと様々ですがこのような音が口を開けようとした時にするようであれば痛みにつながる予備軍です。検査を受けることをお勧めいたします。
-
口が大きく開かない
痛みで口が大きく開けられないといったことが多いですが、痛みがなくても顎関節自体の動きが制限され、口が開かなくなることもあります。
-
口が閉じづらい
顎が外れたという場合には全く口が閉じなくなりますが、大きく口を開けて閉じるときに、閉じづらいなどの症状が出ることがあります。
-
急にかみ合わせ・噛む感じが変化した
顎関節や、顎を動かす筋肉に障害が起きるとかみ合わせに変化が生じることがあります。顎の関節に問題がある状態で、奥歯に被せ物などを行うことでさらに顎の関節に負担をかける結果になることもあります。
-
頭痛・首や肩のこり・耳の痛み・耳鳴りなど
これらの症状が顎関節症に関係する場合があります。これらの症状が顎関節症によるものか他の病気に原因があるのかを慎重に判断する必要があります。
顎関節症の主要な症状
1.痛み
顎運動時(口を開けたり閉じたりするとき)の痛みです。口を開けたり閉じたりする時や食事をしているいわゆる咀嚼時に下顎頭が動くことで顎関節に痛みが出たり、咬筋、側頭筋などといった咀嚼筋に筋痛が生じます。患者さんは顎関節痛と筋痛を区別することができず顎のあたりが痛いと言われることが多いため、治療にあたっては正確な診断が必要になります。
-
顎関節の痛み
顎関節自体に痛みが生じる主な病態は、顎関節を構成する周囲の軟組織の慢性外傷です。顎関節の滑膜、関節包あるいは間接円板の後部にある結合組織などに細菌感染のないいわゆる外傷による炎症が生じ、そのことで痛みを生じます。これら組織に炎症が生ずると顎運動時に下顎頭の動きにより神経が刺激されて痛みが生じます。
-
咀嚼筋痛
筋痛は様々な病態によって生じます。最も一般的な病態は筋・筋膜疼痛です。筋・筋膜疼痛の特徴は鈍い、疼くような痛みです。また、狭い範囲を指で押したりすると、痛みを生じることも特徴です。
2.開口障害
顎関節症ながなければ、自分の指が人差し指から薬指まで3本を縦にして口に入るのが普通です。その時の開口量は約40mmです。最大開口量が40mm以下の場合には顎関節症が発症していると考えます。顎に音が生じていて、ある時、突然、口が開かなくなったときには、クローズドロックという顎関節の関節円板が全法に転位して関節で詰まったことが原因によるものです。これは、マニュピレーションという施術で治すことができます。その他の、開口障害の原因には筋肉によるもの、関節の痛身によるもの、顎の関節の癒着などがあります。
3.関節雑音
食事中や大きく口を開けた時などにカックンとかガリガリといった音が顎関節に生ずることがあります。最も多い関節音は前方に転位した関節円板が開閉口に伴って下顎頭が前後に動く際に下顎頭上に戻ったり、再度転位する時にカックンといった音が生じるものです。その他の関節雑音として下顎頭や関節窩、関節円板が変形してすれ合うことにより生ずるシャリシャリ、グニュといった音があります。この音がすることは顎関節症が進んでいることを示しますので治療が必要な場合が多いと言えます。
4.その他の症状
歯の痛み、舌の痛み、のどや顔面の痛み、耳なりや耳の閉塞感、誤って唇や頬の内側の粘膜を噛んでしまうこと、睡眠時の強度な歯ぎしりや噛みしめ、姿勢の不正、うつ傾向・体調不良など多くの随伴症状がみられるという特微かあります。
顎関節症の基診査法
1.開口量測定
自然に口の開けられる最大開口量と、ドクターが強制的に開口させる開口量(強制最大開口量)を測定します。正常では40mm以上開口できますが、40mm以下の場合には円板性開口障害が疑われます。
2.関節の運動診査
顎関節包や滑膜に炎症を起こしているか否かなどの症状を、顎関節の圧痛や、大きく開閉口させて下顎頭が正常に前方に滑走して動くかどうかを診査します。
3.下顎マニピュレーション診査
下顎を片方ずつ前方に牽引し下顎頭の動きの具合と痛みが出るかどうかを調べます。また、後方に圧迫して同様に診査します。この診査により、下顎頭の滑走障害の有無、関節痛誘発の有無、雑音発生などが判ります。
4.咬筋圧痛診査
咬筋という噛むために使われる最大の筋肉の状態を、筋肉の凹凸、固さを調べ、硬く、こりこりした部分や厚みのある部分を診査します。片側だけで噛む癖があると噛んでいる側の咬筋が大きく、左右の大きさが違って非対称になります。
5.画像診断
必要に応じてレントゲン、MRI、CT等の画像診断を行い他疾患との鑑別、関節障害の確認、関節円板転位の確認等を行います。
顎関節症の症型分類
顎関節症Ⅰ型
頬やこめかみの筋肉だけに痛みをもつタイプです。
顎関節症Ⅱ型
顎関節だけに痛みのあるタイプで、他の関節にみられる捻挫と類似のものです。
顎関節症Ⅲ型
a:復位をともなう関節円板転位
b:復位をともなわない関節円板転位
(顎関節のクッションにあたる顎関節円板に位置のズレや変形などの障害があるタイプ)
顎関節症Ⅳ型
顎関節に対する強い負担が繰り返されたりすることで、関節を作っている骨が変形するタイプです。
その他(顎関節症Ⅴ型)
顎関節症の治療法
顎関節症の治療法にはいろいろありますが、対症療法として、関節痛に対しては安静を指示し、疼痛の強い場合には非ステロイド系消炎鎮痛薬(痛み止め)を投与します。また、筋痛に対しては、大開口による筋ストレッチや筋肉のマッサージなどを指示します。慢性筋痛や広範囲の筋痛および痛み神経の過敏化に対しては三環系抗うつ薬が効果的なこともあります。
次に、就寝中に歯ぎしりや食いしばりのある方にはスプリントと呼ばれる装置(ナイトガードやマウスピースという事もあります)を歯の上につけて寝てもらい、顎のズレを修正していく事から始めるのが一般的です。
どうしても治らない場合には筋肉のしこりであるトリガーポイントに直接ボトックスなど筋肉の過緊張を取り除く注射をすることもあります。(ボトックス治療参照)
他に、顎関節症の発症や経過には生活習慣が深く関わっているということを、患者さんに気づいてもらい、それをとり除く努力をしてもらいます。日中のくいしばり、偏咀嚼の癖などがあることを気づいてもらい、家庭や職場で意識して悪い癖なだの改善を行います。何もしていないときに上の歯と下の歯が接しているだけでも筋肉に負荷がかかり、脳がストレスをかんじていることを知っていただき、やめてもらうことが大切です。
また、各個人の平均最大開口量である人差し指から薬指まで3本を縦にして口に入れて、筋肉のつっぱり感を感じながら5秒間そのままの状態にしてストレッチするのが大変効果的です。
治療の流れ
診査診断 | 顎関節診断検査 |
---|---|
問診 | 顎関節に影響を与える生活習慣に関して詳しく問診します |
検査 | 口腔内模型・噛み合わせ検査 歯の状態とかみ合わせの状態を調べます |
パノラマレントゲン検査 顎関節部分の骨の状態を調べます |
|
CT検査 顎関節部分の骨や筋肉などをCTで撮影し、頭と下顎の関係や筋肉の肥大などを調べます |
|
治療開始 | スプリント(マウスピ-ス)療法、飲み薬、注射、超音波治療、開口訓練など 症状に合わせて治療を組み合わせて行います。 |
新谷 悟の「お口の博士」
Vol.08 歯ぎしり・食いしばりについて
Vol.09 顎関節症について
新谷メソッド・顎関節症 歯ぎしり 食いしばり
顎関節症・歯ぎしり・食いしばりに対するボトックス治療
Tooth Contacting habit(上下歯列摂食癖)
上の歯と下の歯を何もないときに接触させてしまう癖。
歯ぎしり・喰いしばり・顎関節症の原因になる悪い癖です。自分でその癖を直すことで歯ぎしり・喰いしばり・顎関節症の症状が改善することがあります。自分でその癖を直せない方は相談ください。
TCHとは
TCH=(Tooth Contacting habit)
普段の生活で、食事をしている時やスポーツで歯を食いしばっている時など以外の、何もしていないとき、人の上と下の歯は全く接触して(当たって)いません。唇を閉じていても上下の歯は触っていない。その状態が正常な状態なのです。
この状態を、下顎安静位と言います。本来上下の歯は会話、食物の咀嚼、食物の嚥下という動作をするときに瞬間的に触るだけです。ですから接触時間をすべて足しても1日に20分以下です(接触時間を累計しても1日あたり平均17.5分と言われています)。
仕事のストレスや、いろいろな原因で普段の生活の中で、例えば、仕事や趣味でパソコンを操作したり、考え事をしたり、あるいはリラックスして、テレビを見ているときなどに上の歯と下の歯を無意識に当てている人がいます。さらには、ぐいぐいと噛みしめている人もいます。
たとえ強く噛みしめていなくても、上の歯と下の歯を軽く接触させただけで、その情報が脳に伝達され、口を閉じる筋肉は信号を受け取って常に緊張の状態になっていたりします。この咬むため、口を閉じるための咬筋や側頭筋が、緊張の状態であることが、顎関節症や歯ぎしり・喰いしばりの原因になるのです。
TCH(歯列接触癖)が引き起こす症状
TCHは顎関節症、歯ぎしり・喰いしばりの原因になるだけでなく、咬筋や側頭筋といった咀嚼に関係する筋肉の凝り(過緊張)から、頭痛や首の痛み、肩こりなどの原因になりやすい。
また、ひどくなると緊張した顔面の表在筋が神経を圧迫するため、めまいや視力低下を引き起こすこともあります。
TCHの簡単な検査方法 その1
-
Step.1
座っていても立っていてもかまいませんから、姿勢を正しくして正面を向きます。 -
Step.2
上と下の唇を力入れずに自然に軽く接触させます。目を閉じてリラックスして行ってみてください。 -
Step.3
その状態で上下の歯が接触していませんか? -
Step.4
上の歯と下の歯が接触していない方はTCHの可能性が低いと言えます。 -
Step.5
では上の歯と下の歯が接触している方、唇は閉じたままで、上の歯と下の歯を接触しないように少しだけ軽く離してみてください。 -
Step.6
このとき、落ち着かないと感じる方、違和感を感じる方はTCHの可能性があります。
TCHの簡単な検査方法 その2
簡単チェック法
- 舌の側面に歯形がついて凹凸がある方。
- ホホの内側に歯の噛みあわせの面と同じ高さの粘膜に白い線のようなものがある方。
TCHの治療法
-
1. 認知すること
まず上の歯と下の歯を接触させる癖があることを自分自身で知ること。 -
2. 行動すること
職場や家庭など自分の行動範囲の中で目につくところに「歯を離す」などの『貼り紙』をして、それを見た時に歯が接触していたら、離すようにします。 -
3. 継続は力なり
悪癖を取り除くために貼り紙を見なくても無意識に歯の接触を回避できるようにします。
上記の治療法(認知行動療法)がご自分でできない場合には、咬筋・側頭筋を中心とした過緊張を取るための方法が有効になってきます。内服、漢方、筋肉に対するボトックス治療などです。これに関しては東京銀座シンタニ歯科口腔外科クリニックまで相談ください。
TCHによる症状が悪化する事例
-
奥歯や前歯がすり減る
-
歯と歯肉の境目がくさび状に減る
-
かぶせものの冠に穴が開く
-
歯の歯槽骨への沈み込み
-
歯肉の退縮
-
頬の内側に歯形がつき頬を噛みやすくなる
-
歯の一部や歯の被せ物が割れる(欠ける)
-
充填物(歯の詰め物)がとれる
-
歯の根が割れる
-
歯の動揺(歯根膜腔の拡大)
-
歯並びの乱れ
-
舌に歯形がつく
新谷メソッド・顎関節症 歯ぎしり 食いしばり
顎関節症・歯ぎしり・食いしばりに対するボトックス治療