粘液嚢胞 Glossary Mucous Cyst
粘液嚢胞(Mucous Cyst)とは
口の中は、唾液で湿潤状態になっていることはご存じだと思います。この唾液は、3つの大きな唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)によって産生されるだけではなく、舌や口腔底、口蓋、頬粘膜、口唇などの口腔粘膜の粘膜下に小唾液腺という小さな唾液を産生する腺組織が存在するのです。その小唾液腺からは細い管が口腔粘膜に向かって出ており、管を通じて産生された唾液が口内に分泌され、口の中の粘膜を湿らせています。
この小唾液腺から出ている管が何らかの原因で、傷ついたり、詰まったりすると、小唾液腺で産生された唾液が正常に分泌されずに粘膜の下に溜まってしまいます。このように唾液が粘膜下に貯留した疾患を粘液嚢胞と言います。
5mm程度のドーム状の透き通った膨らみ(水胞)が主に下唇や頬の粘膜に生じることが多く、その次に舌尖部下面(舌の裏側)にも比較的よくできますが、これは前舌腺に関連したもので、特別にBlandinNuhn嚢胞とよばれます。また、大唾液腺の一つである舌下腺から発生した口底部に生じる大きな粘液嚢胞のことをガマ腫と呼びます。
粘液嚢胞を厳密に区別すると、導管の損傷により粘液が結合織内に溢出し、貯留して成立する粘液溢出嚢胞(mucousextravasationcyct)と粘液の腺管内貯留としか考えられない粘液貯留嚢胞(mucousretentioncyst)が存在します。
粘液嚢胞の症状
粘液嚢胞は、前述したように、主に下唇の粘膜や頬の粘膜にでき、ゼリー状の粘液(唾液)で満たされた膨らみとして認識されます。大きさは直径5mm前後から数センチになることもありますが、大半は5mm程度の、半丘状の粘膜の腫脹で、比較的柔らく、透明感のある紫青色の境界明瞭水疱性病変として認められますが、深在性のものはピンク色を呈します。痛みはありません。また、上唇にできることもほとんどありません。
嚢胞は破れやすく、しばしば潰れて再発を繰り返します。この腫瘤(粘液嚢胞)を噛むなどして潰してしまった場合には、嚢胞が破れ、中から粘り気のある唾液が流出し、しぼんで小さくなりますが、数日で再度唾液が溜まり、嚢胞が再び大きくなり、自然に治ることはほとんどありません。
10歳未満の子供から30歳代の大人に多く見受けられ、50歳以降の高齢になると発症例は少ない傾向にあります。
粘液嚢胞の原因
前述したように、本疾患の病態は、小唾液腺の産生された唾液の流出障害ですが、その唾液を口腔粘膜の方に排出する管の損傷の原因としては
- 粘膜を噛んでしまう
- 口内炎で粘膜が傷つく
- 歯の尖ったところや矯正器具があたるなどで粘膜を傷つけてしまう
場合が原因として挙げられそうです。
粘液嚢胞の治療
粘液嚢胞は、健康に悪影響の及ぼすことが少ない良性疾患であり、患者さんが気にならなければ、治療しなければいけない病気ではありません。ただし、自然に消えることはほとんどない少ため、症状がある場合や患者さんが希望する場合には、治療を行います。
治療は嚢胞摘出手術を基本としますが、大切なのは、原因となっている小唾液腺と周囲の小唾液腺を同時に除去することです。
注射器で内容物を吸引する穿刺吸引術や凍結療法、レーザー治療を行うこともありますが、いずれもガマ腫のように比較的に大きな粘液嚢胞で適応されますが、予後が不安定でありあまり推奨できない面もあります。
【CASE.01】
左側下唇粘液嚢胞 40歳代 女性
左側下唇の腫瘤性病変に気づき、精査、加療を希望し当クリニックを受診。
左側下唇に限局性の弾性軟の隆起性病変を認め、中に液体を貯留する粘液嚢胞の診断下、口唇粘液嚢胞摘出術を施行した。病理組織診断の結果は粘液嚢胞であった。摘出後、再発 などなく経過良好である。
嚢胞摘出時、出血をコントロールする目的と術野の確保のために眼瞼翻展器を使用する。嚢胞の表層粘膜に切開を加え、鑷子で上方にけん引して嚢胞を明示する。
鑷子でさらにトラクションをかけながらメスで嚢胞を明示し、口唇組織から剥離していく。
さらに剥離を続けて摘出を行う。カウンタトランスラクションが重要である。摘出物の所見 摘出物は病理組織検査に提出する。