口腔底歯牙迷入(翼突下顎隙) glossary Pterygomandibular Space
口腔底歯牙迷入(翼突下顎隙)
口腔底(翼突下顎隙)歯牙迷入とは
下顎第三大臼歯親知らずの抜歯での、偶発症の中でも特に問題になるのが、口腔底(翼突下顎隙)へ抜去した歯牙(歯根)が迷入することであり、口腔底に感染源を押し込むことになり、しばしば重篤な感染が生じる場合がある。また、迷入歯牙を摘出することが困難で、全身麻酔下で口腔内からアプローチするが、それでも摘出困難な場合には顎下部の皮膚を切開して摘出しないといけないこともある。
翼突下顎隙とは
翼突下顎隙 (よくとつかがくげき)とは、下顎枝と内側翼突筋との間にある組織隙のことである。親知らずが生えてくるあたりの内側にある組織が疎=筋肉などの臓器がなくて組織的に密でない部分。
ポイント
親知らずの抜歯において、下顎の形態から内側の骨が薄く、歯(歯根)が口腔底に落ちそうになる(迷入しそうになる)ことは、まれですが実際にあります。その原因は「変な力=抜く方向」ではなく、奥に押し込む方向に力をかけるなど、術者の技術が未熟な場合が多いのも事実です。万が一、迷入しても冷静にその歯が骨膜下に存在していると判断して対処すれば大きな問題にならないケースがほとんどです。焦って患者さんに迷惑をかけることがないように冷静な対応が必要です。
迷入が生じた場合には速やかに歯根を摘出することが重要ですが、速やかに摘出されなかった場合には、蜂窩織炎(歯が原因となる膿瘍)を引き起こします。重篤な場合には、顎の下が腫れたり、抜歯した穴から膿が出るなどの症状が併発します。確かに、非常にまれですが迷入した歯根が極めて小さい場合に、放置していたら、抜歯した穴から歯根が出てきたということもありますが、期待して待つということはしない方が良いと思います。
どんな病変か・原因は
下顎の第三大臼歯などを抜歯している際に、抜歯操作のミスで偶発的に口腔底、顎の内側の粘膜の下に歯根が迷入する場合が多く、抜歯をしている歯科医師はほとんどの場合にそのことをわかっており、対応はしますが、患者さんに誤って口腔底に歯や歯根が迷入したことを言わないドクターもいます。
治療法
口底内に歯牙あるいは歯根が迷入した場合は、抗生物質の投与など感染防御をした上で、できるだけ速やかに迷入した歯(歯根)を摘出することが大切です。
摘出方法
- 歯茎を切開して下顎の骨膜下ならびに翼突下顎隙を鈍的に剥離して迷入した歯・歯根を探し摘出します。
- この部分は舌が動くなど非常に狭く、動きがある部分で、摘出には全身麻酔が必要です。
以上の方法があります。いずれも大学病院などでは数日の入院が必要と言われることが多いと思います。
症例
他院からの紹介で、口腔底内(翼突下顎隙)に歯根を迷入させてしまった。どうにかしてほしいとのことで来院されました。CTを撮影したところ、翼突下顎隙に迷入した歯根を認めましたが、明らかな炎症所見はありませんでした。骨膜下にとどまっているとの判断で、抜歯窩よりの摘出が行えました。