唾石症 Glossary Sialolithiasis
唾石症とは
唾石は、大唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)からの唾液排出管(導管)中に結石が生じ、唾液流出障害や炎症が起こる病気です。
唾石は唾液腺で作られ、導管を通じて口内へ流出します。唾液の役割は口の潤いや清潔を保ち、食べ物の消化を促すほか、唾液に多く含まれるカルシウムにより歯の保護にも役立つことが知られています。このカルシウムが導管に入り込んだ細菌や異物を芯にして結石を生じたものが「唾石」です。
唾石症は、そのほとんどの80%が、顎の下にある顎下腺と、その導管で舌の裏へ通じるワルトン管内にできます。残りは、耳の前から頬に位置する耳下腺と、その導管で頬の裏へ通じるステノン管にできます。舌下腺には約1%しか発生しません。
さらに、唾石ができる患者さんの約25%で複数の結石ができています。顎下腺では約5割が唾液排出管内、約4割が腺管移行部、約1割が顎下腺内に生じます。男女比は2:1で男性に多く認めます。
唾石症の症状
唾石症の初期には症状を認めないことが多く、唾液排出管の部分的、または完全な閉塞が生じた時に症状が出現します。
症状としては唾液腺や導管の中にできた石が詰まりの原因となるため、顎下部が腫れて痛みが出るなどの症状が見られます。
特に食事の時に激しく痛みを生じ、このことを唾疝痛(だせんつう)と呼びます。これは食事への反応で増えた唾液が、唾石でせき止められるために起こります。食後しばらくすると腫脹は改善しますが、食事のたびに繰り返すようになります。
唾液の噴出と同時に症状の緩和が起こることもある一方、細菌感染を引き起こした場合には、口腔底粘膜(舌の下側)の腫脹や発赤、時には膿の排出も認めます。
唾石症の検査
X線検査やCT検査を行ない、カルシウムを示す白い塊が写れば確定診断となります。超音波検査で確認されることもあります。
唾石の場所や大きさ、個数などを把握するのにCT検査が有用です。また石が首の外と口の中を両手で探る双手診(そうしゅしん)で硬い塊に触れることができ、これにより位置や状態を把握することができます。
顎下腺唾石の90%は放射線不透過性であり、耳下腺唾石の90%は放射線透過性であるため、耳下腺唾石では単純X線は必ずしも正確ではありません。
耳鼻咽喉科や内科では超音波検査が用いられることが増えてきており、全て(放射線不透過性および放射線透過性)の唾石についての感度は約60~95%、特異度は85~100%と報告されている。
Kim DH, Kang JM, Kim SW, et al: Utility of ultrasonography for diagnosis of salivary gland sialolithiasis: a meta-analysis.Laryngoscope. 2022 Jan 19.doi: 10.1002/lary.30020.Epub ahead of print.PMID: 35043982.).
唾石症の治療
無症状の場合や症状が軽い場合、とくに石が小さい場合は自然に口の中へ排出されることも多いので経過観察とし、しっかりと『唾液腺マッサージ』を行います。
腫れている方の顎の下を、顎の骨に沿って後ろから前に手のひらで押すようにする動きをしばらく繰り返します。唾液腺マッサージを行うことで、唾石が自然排出されたり、症状が緩和される可能性があります。
痛みや腫れが強い場合は細菌感染を起こしていることが考えられるため、抗菌薬を用いて炎症を抑えます。
症状を繰り返し、石が自然に排出されることが難しいと考えられる場合は手術での摘出を考慮します。導管の出口に近い場所に石がある場合は口の中から導管を切り開いて摘出しますが、唾石の再発や舌の麻痺が起こる可能性があります。
難しい場合は全身麻酔のうえ、首の外から皮膚を切開し唾液腺ごと唾石を摘出します。
症例1(30代 女性)
CTで口腔底、舌下部のワルトン氏管の開口部付近に石灰化したX線不透過像の唾石を認める。
症例2(30代 女性)
CTで顎下腺と導管移行部付近に石灰化したX線不透過像の唾石を認める。
症例3(40代 男性)
CTで顎下腺と導管移行部付近に石灰化したX線不透過像の唾石を認める。
症例4(20代 女性)
口腔底、舌下部のワルトン氏管の開口部に唾石を蝕知したため(A)、直上を切開しモスキートで剥離(B)、ワルトン氏管を明示する(C)、そして唾石の直上でワルトン氏管を切開して唾石を摘出した(D)。
摘出した唾石(E)と縫合後の口腔内所見(F)縫合で最も大切なので唾液の流出障害を生じてないこと、涙管プジーを用いたワルトン氏管の確認が重要である。